はじめに
この記事について
2024年に読んだ小説について雑多に振り返る記事です。
毎年軽くは振り返ってるけど、せっかくブログ作ったのでちゃんと言語化して振り返ろうかなと。
量が多いので目次つけた、えらい。(えらい)
記事の編集画面に「読了時間75分」とか出てるので、覚悟持って全部読むか、興味あるとこだけつまみ読むかしてもらえたら。
自分でも添削する気力ないので、誤字脱字等は見逃してもらえたら。
なぜ読んだ本を振り返るのか
交響詩篇エウレカセブンという作品がとても好きで、今でも年数回見返している。
その第1話冒頭でストナーというキャラクターが次のような言葉を紡ぐ。
音楽とか映画とかって、その中身がって言うよりも、その時の記憶って言うかさ、その時の人と人との関係を思い出す事が多いだろう。
そう、つまり記憶と言うものは、決してそれ単体で存在せず、
それを取り巻く環境に支配されているというわけだ。引用:アニメ『交響詩篇エウレカセブン』 第1話 ブルーマンデー
僕は過去に読んだ本のことを思い出す時、いつもこの言葉を一緒に思い出す。
本のことを思い出すと、読んでいた時の感情や感動は言わずもがな、その本を読んでいた場所やシチュエーション、果てはその時の気温や嗅いだ匂いまで思い出せる。
なんなら、ストーリーなんかよりもよっぽど、それら周辺情報の方が鮮明に記憶に残っているくらいだ。
それらを感じ、浸りたくて、過去に読んだ本に思いを馳せたがるのかもしれない。
2024年に読んでおもろかった小説10選
全作品についての感想を書く前にとりあえずね。
- 『少女マクベス』 降田天
- 百年シリーズ
- 『サリエリはクラスメイトを二度殺す』 額賀澪
- 『小説』 野崎まど
- 『王とサーカス』 米澤穂信
- 『ふたりの距離の概算』 米澤穂信
- 〈小市民〉シリーズ
- 『夢の樹が接げたなら』 森岡浩之
- 『レーエンデ国物語 夜明け前』 多崎礼
- 『大樹館の幻想』 乙一
一応上下差ありだけど、曖昧。
シリーズ物でまとめているのと、単体でランクインさせているのがあるのも気分。
2024年に読んだ本一覧とそれらに対する現在の所感
あくまで現在の所感。
全作パラパラ読み返して、そういえばこんなの読んだなあってのを感じつつ書いてる。(9割以上kindleで読んだのでパラパラは嘘)
作品ごとに感想の熱量が違うのは、感想を書いているときの気分によるもの
面白かったから分量が多いとか、つまらなかったから分量が少ないとかではない。
あと、序盤と終盤でテンションがだいぶ違う。
1月
『あなたが誰かを殺した』 東野圭吾
加賀恭一郎シリーズの最新作。
東野圭吾作品は基本kindleで出してくれないので、2024年に紙で読んだ数少ない本のうちの一冊。(正月に読んで、そのまま実家に置いてきたので今手元に無い)
子供から見た大人の邪悪さって確かにこんな感じだったな、って思いながら読んでた気がする。醜い人がたくさん出てくる。
2月
『二の悲劇』 法月綸太郎
2023年末に『一の悲劇』を読んでいたのでその流れで。
メインの事件の謎だけじゃなくて、それに絡めたサブの謎が予想できない形で終盤に明かされて興奮した。
序盤は読んでいてなんとなくアマガミとかのギャルゲー味を感じた思い出。
『ファラオの密室』 白川尚史
舞台は古代エジプト。死後、自分の死因を探りに現世に蘇った神官書記が被害者兼ホームズ役兼主人公。
特殊設定なのに矛盾がなくて、よくできてるなと感心した。
ただ肝心のミステリー部分が動機やトリック、謎解き含めて全体的に弱かった印象。
オチも「してやったり」感が出てたが、読んでる側としては「そう…」としか言いようのないような内容だった記憶。
『変な家』 雨穴
話題作だが、逆張りが働いて読んでなかった。
読むとちゃんと面白かった。
ストーリーの展開に合わせて都度情報が開示される方式なので、ミステリー要素も含むホラー小説のくくりとして楽しめた。
最終的に謎も綺麗に解けてスッキリ読めた記憶がある。
ちなみに、読後に公開された映画は観にいって後悔した。
『変な絵』 雨穴
『変な家』を読んで雨穴作品にハマって読んだ。
『変な家』ほどのクオリティではなかったが、やはり最終的に謎が綺麗に解ける構成で、作者の力量を感じた。読後感は『変な家』よりも爽やかだった気がする。
『変な家2』 雨穴
『変な家』『変な絵』の両作よりもスケールアップしており、いくつかの変な間取りから一つの結論を推測していくストーリー。
雨穴作品の中では一番好き。各所で蒔いた伏線がちゃんと回収されていってる感が良かった。
『近畿地方のある場所について』 背筋
モキュメンタリーホラーとして、雨穴作品と似たような評価を受けていたので読んだが、ジャンルからしてそもそも別物だった。
雨穴作品が人間の怖さを書いたホラーミステリだとすると、こちらは怪異の恐ろしさを書いた純ホラー。謎が解けていく感覚は無く、ホラー映画を観ているような感覚だった。
悪くはなかったが、雨穴ライクと聞いて読んだので若干騙された感がある。
『ミノタウロス現象』 潮谷験
世界中にミノタウロスが自然発生するようになった世界が舞台の特殊設定ミステリ。
事件の謎を足がかりに、もっと大きな謎(ミノタウロスの正体とは?なぜ突然自然発生するようになったのか?)が解かれる流れになっているが、そもそもの事件のスケールが小さい上に、トリックもあまり魅力的ではなかった。
肝心のミノタウロスの正体や自然発生する理由については面白かったので、全体的に悪くない読後感だった。
『怖いトモダチ』 岡部えつ
これも『変な家』の流れでモキュメンタリーホラーが読みたくなって読んだ作品。
ミステリー要素は無いが、人間の怖さが丁寧に書かれており、現実のどこかで似たことが起こってそうというリアリティが感じられた。
読後感が(いい意味で)悪かった。
3月
『ぼぎわんが、くる』 澤村伊智
kindleで10円セールやってたので買って読んだ覚えがある。
澤村伊智作品のことは認知していたが、ホラー小説というジャンルだったためこれまで読んでこなかった。『変な家』を読んだあたりからホラーがマイブームになっていたので読んだ。
すごく楽しんで読めた。ホラー映画を観ているような感覚で、後半はゾクゾクしながら読めた。ホラー小説の力を侮っていたことを認識させられた。
これを読んだ後ホラーのマイブームが去ったのでシリーズ続編は読んでいないが、機会があれば読みたい。
『揺籠のアディポクル』 市川優斗
数年ぶりの再読。発売直後に読んだ記憶があるので、多分3年半ぶり。
僕は市川憂人のファンなのだが、市川憂人作品の中で一冊の満足感が一番高いのはこの作品だと思う。今のところ、個人的な人生のベスト10に入っている。
無菌病棟で生活する主人公とヒロイン。序盤は丁寧に二人の生活風景が描かれるが、事件発生後に物語が一変する。終盤に訪れるネタばらしのパートは再読であっても鳥肌が立った。
デビュー作、『ジェリーフィッシュは凍らない』が”十角館の殺人の再来”と称されているのを見るが、一気に脳みそをひっくり返すインパクトで言えば、本作の方が十角館に近いと思う。
多分また読むんだろうな、と思う一冊。
『可制御の殺人』 松城明
個人的にあまりハマれなかった一冊。
それぞれの作品が、”鬼界くん”と呼ばれる謎多い人物で繋がっているオムニバス作品。
鬼界くんは個性が立っているが、その他各章で登場するキャラクターの個性が薄くて舞台道具のような印象が強かった。
加えて、唯一個性の強い鬼界くんもそこまで魅力的なキャラクターかと問われると閉口してしまう。
元々続編の『観測者の殺人』が気になって読んだ作品だが、結局そちらは読まずじまいになっている。
4月
『春季限定いちごタルト事件』 米澤穂信
米澤穂信って感じの青春×日常の謎モノ。
過去、米澤穂信作品は『さよなら妖精』と『インシテミル』と『満願』、あとはアニメで『氷菓』を見たことがある程度。
個人的に『満願』があまりハマらなかったので、「米澤穂信は短編より長編だな」と判断して〈小市民〉シリーズも読んでいなかった。
結果として、その判断は早計だった。
〈小市民〉シリーズは短編集の『巴里マカロンの謎』と最終巻の『冬季限定ボンボンショコラ事件』を除いてオムニバス形式で書かれている。章立てだけを見て勝手に短編だと判断してしまったが、一冊を通して一つの結末に向かって書かれている。
日常の謎を追っていると、いつの間にかそこそこ規模の大きい事件に(自発的に?)巻き込まれるという物語。解決パートもやはり論理的でスマートに書かれていて、読んでいて退屈しない。おまけにキャラクターも魅力的。(僕は健吾が一番好き)
米澤穂信作品にのめり込むきっかけになった一冊。
『夏季限定トロピカルパフェ事件』 米澤穂信
途中までは前作と似た構成。ただ、今作の各種の謎は小山内さんを中心に発生している。小山内さんが前作よりも物語の主導権を握っており、小山内さん自身の魅力を存分に発揮している作品になっている。
また、今回はメインの事件解決後のパートに重きが置かれていて、読んでいて息が詰まるような空気感だったし、心が苦しかった。(ちゃんと続編があって良かった)
『秋季限定栗きんとん事件 上』 米澤穂信
似た構成が続いた春、夏と本作のもっとも異なる点は、『物語の中心が小鳩くんと小山内さんの二人じゃない』という点だろう。
物語は小鳩くんと、新登場の瓜野くんの二人の視点から交互に描かれる。瓜野くんは新聞部部長となった健吾の後輩で、野心を持った新聞部員の一年生だ。
また何より驚くのが、小山内さんはその瓜野くんと、小鳩くんはこれまた新登場の仲丸さんと交際している。
この二組のカップルの日常、あるいは瓜野くんの新聞部での活躍(?)と小鳩くんの暗躍を通して、連続放火事件の全貌が描かれる。
『秋季限定栗きんとん事件 下』 米澤穂信
とてもいいところで上巻が終わったので、その日のうちに下巻も読了してしまった覚えがある。(実際に記録を見てみるとその通りだった)
連続放火事件の結末と、二組のカップルの行く末と。特に後者はキャラクターを引き立てて、こちらの情緒をこれでもかと言うほどに揺さぶってくる。
あと、そこまでピックアップされてないけど、小鳩くんと健吾の絡みが”良”すぎるんだよな…。あとあと、ちっちぇえ小山内がハンマー振り回すのもハオ…。
瓜野くんは愚かで、仲丸さんはカスで、小鳩くんは邪悪で小山内さんはゲスで。ただ、小鳩くんと小山内さんには美学がある。うん、とても面白かった。春、夏以上に楽しめた作品だった。
『巴里マカロンの謎』 米澤穂信
春→夏→秋と続いて、四作目は番外編の短編集。
特に言うことも無い完成度の高い日常の謎が四篇収録。個人的には『伯林あげぱんの謎』が好き。(泣いてる小山内さんかわ∃)
『冬季限定ボンボンショコラ事件』 米澤穂信
シリーズ最新作。運良く発売前日に購入でき、当日読み終えるほど面白かった。
本作がが刊行されるという噂を小耳に挟んだからシリーズを読み始めたのか、『秋季限定栗きんとん事件』を読み終えたタイミングで偶然本作がある刊行されたのかは覚えていない。
発売日前日に購入したことからもわかる通り、2024年に紙で読んだ数少ない本のうちの一冊。
今作はこれまでのシリーズ作品とは異なり、事故に遭った小鳩くんが安楽椅子探偵となって自分を轢いた犯人を探し出す、ひいては小鳩くんが小市民を目指すきっかけとなった中学生時代のある事件についても掘り下げる内容になっている。
なぜか「アニメ最終回独特の、尺を存分に使うためにオープニング曲がカットされるアレ」を小説から感じ取れた。
謎の規模自体は『秋季限定栗きんとん事件』よりも小さいものの、冬を感じさせる描写の連続だったり推理パートのスマート感がかなり良くて、個人的にはシリーズで一番好きかもしれない。
5月
『レーエンデ国物語 夜明け前』 多崎礼
レーエンデ国物語には昨年からハマっている。
個人的には二作目の『月と太陽』が一番好きだが、この『夜明け前』もだいぶ良かった。
どこまでも純粋で透き通った兄妹愛と、それを押し殺してでも成し遂げなければならない革命。美しすぎる、残酷な物語。
はやく最終巻『夜明け前』を読ませてくれという気持ちは読後7ヶ月経った今も失せていない。
『人間の顔は食べづらい』 白井智之
再読。
本格的に精神を病んでいた時期なので、再読やライト文学、短編小説を多く読んでいた記憶。
この人間の顔は食べづらいは、自分にとって白井智之作品の二作目にして、本気で白井智之にのめり込むようになったきっかけの作品でもある。
ちなみに一作目は『少女を殺す100の方法』。こっちもおもろい。
今でも変わらない特殊設定多重解決エログロゲロの作風。ゲテモノだらけのくせに設定に矛盾が無くて、物語自体は理路整然とした論理が敷き詰められている。
美しいとしか言いようのない作品。ロジックに傾倒する人間は全員白井智之を読め。
『エレファントヘッド』 白井智之
再読。
問題作。神作。奇作。なんと言い表すのが妥当かわからないが、僕が人生で読んだ作品でもっとも凄まじい作品の一つであり、もっとも人に薦めづらい作品の一つでもある。
作者自身が「ミステリ作家たるもの、名詞代わりのトリックの一つや二つは欲しい」(意訳)と考えたトリックは本当にぶっ飛んでて、凄まじくて、恐ろしいし、そこに至るまでのコミカルに提示される多重解決も退屈しない内容ばかり。トリック見破れた人間はこの世にいないと断言したい。あんなの誰がわかるかよ。
前提の特殊設定自体は多元宇宙だとかマルチバースだとか言われるもので真新しいものでは無いくせに、そこから新しいものを生み出してしまう底力が本当に怖い。
何食ったらこんなの書けるんだ。
ただ、倫理観は終わってるので人には薦め辛い作品。代わりに『名探偵のいけにえ』を薦めて、白井智之を周りに布教してる。
『ときときチャンネル 宇宙飲んでみた』宮澤伊織
ゆるいノリで進む短編(オムニバス?)作品。
『上野さんは不器用』という漫画を読んでる時とほぼ同じ感覚で読んでた。
めっちゃゆるーいノリでゆるーいSFとゆるーい百合をやってくれるので、脳みそ使わずに読めて良かった。
個人的には続編出てほしい。
というか作者、『裏世界ピクニック』の人なんだ。(今知った)『裏世界ピクニック』も読んだことないので読んでみようかなという気に今なった。
また、完全に余談だが、僕は頻繁(ほぼ週1~2)に大江戸温泉物語 浦安万華鏡に通って、温泉に入ったり休憩所で本を読んだりしていたのだが、その浦安万華鏡が6月2日に閉館した。本作が浦安万華鏡で最後に読んだ作品になる。いい場所だったので悲c。
『独白するユニバーサル横メルカトル』 平山夢明
ブラックユーモア味あふれる短編集。
老人迫害、カニバリズム、ネグレクト、殺人、拷問、その他この世の汚いこと全部詰め込んだような作品が並ぶ。
その中で個人的に一番好きだったのは『Ωの聖餐』。
物語のキーパーソンは、ヤクザに監禁されているオメガという男だ。
彼は、ヤクザが始末した人間を証拠を隠滅するために、物理的にしたいを食べさせられている。
彼は長年にわたって人肉のみを食べる中で、ある特殊な能力を身につけている。
その特殊な能力を生かした物語の進行とオチが秀逸なので、一つの短編作品として完璧な出来だった。
『真贋』 深水黎一郎
芸術作品の真贋をテーマにしたミステリ。
面白くなかったわけではないが、どうもイマイチ乗り切れなかった。
ストーリーや事件の謎よりも芸術作品やその真贋に関する蘊蓄が前に前に出過ぎていて、「そう…」と思いながら読み進めた覚えがある。
そのうえ、肝心のトリックや動機など、ミステリィ華となるべき部分もあまり魅力的に感じられなかった。
6月
『天狗屋敷の殺人』 大神晃
死体消失マジックや派手な殺人事件など、ワクワクする設定がたくさん盛られたミステリ。
肝のトリックは派手で面白かったが、それ以外の謎は正直すぐに想像できるような出来ではあった。(「登場人物もこれくらいすぐわかるだろ」と思ったしまったほど)
ただ、オチのやるせなさというかモヤモヤは悪くなくて、全体的に嫌いじゃない作品。
『少女庭国』 矢部崇
3年ぶりの再読。
何もない部屋が無数に数珠繋ぎになった空間と、各部屋に一人ずつ眠る中3の卒業生少女。
各部屋には前後についた扉と、その扉に張られた「ドアの開けられた部屋の数をnとし死んだ卒業生の人数をmとするとき、n-m=1とせよ」と脱出条件が書かれた張り紙、それと少女のみ。
張り紙の意味するところは要するに「ドアを好きなだけ開けて、開けた部屋にいた少女たち全員の中で生き残った一人だけ出してあげるよ」という単純なものだが、めちゃくちゃ奥が深い。
僕はこの作品を思い出すとき、いつも「新時代の神話」というフレーズも一緒に思い出す。そのフレーズがこの作品に向けられたものだったのか否かは覚えていないが、少なくとも僕にとっての「新時代の神話」はこの作品だ。
文字通り無数の部屋(とそこに眠る少女)が数珠繋ぎに連なっており、ある部屋までの扉が開かれた除隊で脱出条件が満たされた場合、その次の部屋の少女が目覚めることになっている。
目覚めた少女たちはルールに則り殺し合いを始めることもあれば自殺を図ることもある。
閉ざされた状態の部屋は時間の流れが止まっているため、新鮮な食糧がいつでも手に入ることを逆手に取り文明を築こうとした集団もいた。数億年に亘って実際に文明を築いた集団もいた。
僕の語彙ではこの作品を簡潔に説明することはできない。ただ一つ言えるのは、この作品が紛うことなき神話であるということだけだ。
一番すごい作品の一つ。
『ミステリー小説集 脱出』 阿津川辰海、井上真偽、空木春宵、織守きょうや、斜線堂有紀
脱出をテーマにしたアンソロジー作品。
どの作品も面白くて、ふとした瞬間に思い出すようなものばかりで満足度が高かった覚えがある。
中でも特に射線堂有紀の『鳥の密室』の出来が良くて、自力の高さを感じた。
『氷菓』 米澤穂信
米澤穂信にハマっていたので、「何でもいいから米澤穂信の作品を読みたい!」と思って白羽の矢が立ったのが〈古典部〉シリーズ。
アニメは観ていたので、『氷菓』『愚者のエンドロール』『クドリャフカの順番』『遠回りする雛』あたりは読まなくても良かったが、アニメ版との差異もあるだろうと思ったのと、せっかくなので復習しなかったのとで最初から読むことにした。
ほぼアニメままだった。(「アニメが小説ままだった」と言うほうが正しいか。)
京アニすげー。
面白かったけど内容自体は知ってるものなので、特筆することはなし。
『愚者のエンドロール』 米澤穂信
前述の『氷菓』と同じ。
ただ、入須先輩と奉太郎のやり取りの場面の奉太郎の心情が地の文で解像度高く描かれている点は、読んでよかったなと思う。
『クドリャフカの順番』 米澤穂信
前述の『氷菓』と同じ。
『遠回りする雛』 米澤穂信
前述の『氷菓』と同じ。
アニメで描かれた順番と異なっていて面白かった。
『ふたりの距離の概算』 米澤穂信
ここ以降はアニメ化されていない〈古典部〉シリーズ。
正直、この作品がシリーズで一番面白かった。
マラソン大会を主軸に回想メインの物語。
仮入部中の新入部員はなぜ、突然入部を取りやめたのか、がメインの謎になる。
米澤穂信作品の”声にならない叫び”みたいのの虜になったきっかけはこの作品
『さよなら妖精』を思い出す、すっきりできないけど、登場人物たちはそれでも前に進むんだろうなという独特の読後感がよかった。
『いまさら翼と言われても』 米澤穂信
〈古典部〉シリーズの現時点での最新作である短編集。
個人的には麻耶花の目を通して奉太郎の過去を描いた『鏡には映らない』と、今までずっと家を継ぐ気で生きてきたのに突然●●と告げられた千反田を描いた表題作『いまさら翼といわれても』の二作が好きだ。
特に後者は、いつも気丈に爛漫に振る舞っていた千反田の”声にならない叫び”が本当に良かった。
今でも、高頻度であのシーンを思い出す。
続編の予定があるのかについては不明だが、個人的にはもっともっと続いてほしいと思うシリーズだった。
7月
『王とサーカス』 米澤穂信
〈ベルーフ〉シリーズの一作目。『さよなら妖精』にも登場していた太刀洗万智が主人公。
報道の在り方だったり社会問題がテーマになっていて『さよなら妖精』同様重たい雰囲気があるが、ぜひいろんな人に読んでほしい一作。
この作品も”声にならない叫び”が聞こえてくる作品。
『殉教カテリナ車輪』 飛鳥部勝則
ずっと読んでみたかった飛鳥部勝則作品。限定復刻感謝。
個人的に”死んだ天才”という属性が大好きなので、だいぶハマった。
が、如何せん古い作品なので、要所要所でどうしてもジェネレーションギャップを感じてしまった。(「これなんで捜査の段階で犯人絞り込めてないんだっけ。ああ、書かれたのが昔だから操作水準も当時のものなんだな」ってなる)
とりあえず飛鳥部勝則作品が面白いことは確認できたので、機会があれば他も読みたい。
8月
『動物城2333』 荷牛/王小和
動物が進化して自分たちの国を築き、今まで自分たちを軽んじてきた人間の国とは対立している、という特殊設定のミステリ。めちゃくちゃそそられた。
内容も面白くて、捜査パートも幻想的というか独創的でとても物語に引き込まれた。
ただ、解明部分が「それは反則でしょ」って感じだったのだけモヤモヤが残る。それでも、その反則すらも一応筋は通っているので納得せざるを得ない良作。
『死んだ石井の大群』 金子玲介
石井姓の人間百人を一ヶ所に集めたデスゲームが主軸の作品。
デスゲームのパートと、デスゲーム参加者がどこに消えた(連れ去られた)のかを探るパートの2パートで主に構成されている。
どちらのパートもあっさりとした文体で読みやすくてよかった。
が、正直肝心の謎が簡単で、それなりに本を読んでいる人間なら序盤3割ほどを読んだ段階で「ああ、なるほどね」となってしまうので、残り7割を答え合わせ気分で読まされることになる。
『ぼくは化け物きみは怪物』 白井智之
白井智之作品の2024年の作品は短編集。
収録全5作のうち4作は過去に雑誌やアンソロジーに掲載されたもので、うち2作は読んだことがあった。それら4作品はどれも秀作といった感じで、どれも同じくらいに面白かった。
個人的にその中から一番を選ぶなら『モーティリアンの手首』を選ぶ。
文章を読んでいてなんとなく違和感は感じるものの、それがなんなのかわからないまま読み進めていると、突然見えていたものが逆転する感覚がある。
短編ながら、完成度の高いどんでん返し作品。
書下ろしの『天使と怪物』は凄まじい。短編なので当然『名探偵のいけにえ』や『エレファントヘッド』ほどの圧力はないが、それらに比肩する論理展開とオチの強さがある。
エログロはほぼ無いので、安心して薦められる。
彼女は逃げ切れなかった 西沢保彦
恒例の西沢保彦の特殊設定ミステリ。
今回は連作集で、超能力を使える双子と退職済の元刑事のお話。
西沢保彦の独特な文体とストーリーの間の抜け方がマッチしていて良かった。
キャラクターの個性が立っていて、一冊で使いつぶすのは惜しい気もするので、続編が出るならぜひ読みたい。
『少女マクベス』 降田天
個人的な2024年ベストミステリ。
全寮制の演劇女学校で1年前に起こった、天才脚本家学生の事故死の謎を解き明かさんとする物語。
天才への憧れ、嫉妬、羨望、敵対心。様々な感情渦巻く中で、あの日一体何が起こったのか、なぜ天才は死んだのか。
あまりにも美しく残酷で、それでいて論理的なミステリだった。
降田天作品は初めて読んだのだが、一気にファンになってしまった。
9月
『牢獄学舎の殺人 未完図書委員会の事件簿』 市川憂人
「解決編の存在しない謎のミステリ作品になぞらえて発生する事件」を題材にした作品。
『揺籠のアディポクル』の欄で触れた通り、僕は市川憂人のファンだが、この作品はあまりハマらなかった。
新しい挑戦をしようという意欲は感じたが、どうも上手く書ききられなかった印象。
『右園死児報告』 真島文吉
一般的にホラーと呼ばれるジャンルの作品でないものをホラーだという謳い文句で宣伝するのは、やり方が少し汚いんじゃないかなといった感じ。
特に感想はなし。
『令和元年のゲーム・キッズ』 渡辺浩弐
「ゲーム・キッズ」シリーズは過去に別作品(『2030年のゲーム・キッズ』)を読んだことがあり、それが面白かったので本作も読んだ。
「法律で一律の寿命を設けるぜ」って設定で書かれたショート・ショート。もしこういう時代が来たらこういうことも起こりうるよね、って作品ばかりで、読んでいて非常にわくわくする。本当にゲームをしている感覚。
多分、「ゲーム・キッズ」シリーズは今後もちょくちょく読むと思う。
『彼女はそこにいる』 織守きょうや
ホラーミステリ。
謎の真相は読んでる途中である程度想像のつく物だったが、悍ましさとかそういった部分が凄くて、一気に引き込まれて読んだ記憶がある。
オチも綺麗に纏めたのも良かった。
『大樹館の幻想』 乙一
乙一が書く初の館ミステリ。
乙一作品は短編はちょくちょく読んでいるものの、長編は数年前に読んだ『夏と花火と私の死体』以来の2作目。
自分の中に宿る胎児が未来が見えているかのように自分に語りかけてくる、という乙一らしい特殊設定ミステリだった。個人的にだいぶ好きな設定。
特殊設定なんて奇抜であればあるほどええですからね。
幻想とタイトルにあるように全体的にファンタジーな雰囲気をまとっていた。
肝心の事件の解はそれほど気の利いたものでは無かったが、胎児の謎だったり御主人様の紡ぐ物語だったり、独特の空気感だけでだいぶ満足感高かった。
時代背景がよくわからなかったのだけが残念。(途中まで現代設定を想定していたので「なんでこの人たちスマホ使わないんだろう…」とか考えてた。)
10月
『二人一組になってください』 木爾チレン
「二人一組になってください。余った一人が死にます。ただし、余った一人が『特定の生徒』(=いじめられっ子)だった場合は、『特定の生徒』以外の全員が死にます。以上の内容を、生徒の数が二人あるいは一人になるまで繰り返します」というルールのデスゲーム(?)モノ。
意外感のある展開は無かったし、落ち着くところに落ち着いたなって感じの結末だったが、テンポが異常に良かったので飽きずに最後まで楽しめた作品。
『ファイナル・ウィッシュ ミューステリオンの館』 西澤保彦
西澤保彦働きすぎだろ感がある。
死に際、最後の願いをかなえるための場所に集められた10人の男女。
一体誰が彼らをここに、何のために集めたのかを紐解いていくミステリ。
いかんせん登場人物の小物感とチープな舞台設定感が拭えなかった。
西澤保彦作品特有の軽い文体のせいでさらにチープさが増していたような。
題材と、解き明かされた真実自体はそれなりに面白いものだったので、全体的にもったいなかったなと思う作品。
『シンデレラ城の殺人』 紺野天龍
童話『シンデレラ』をモチーフにしたミステリ。
舞踏会に来たシンデレラは、王子殺害の容疑で臨時法廷にて裁かれることになる。無実を証明するためにいろいろ試行錯誤するシンデレラ───。
という内容。
コミカルな登場人物たちと、退屈しない彼らの掛け合いが印象に残っている。
謎の解明パート自体はそれほど大それたものではなかったが、それに付随した「そうだったの⁉」的な真実が代わりに面白さを演出している。
小学館文庫の作品ということもあり、初めてのミステリとかで読むにはちょうどいい気がする。
『ミステリ・トランスミッター 謎解きはメッセージの中に』 斜線堂有紀
「最後の言葉」を題材にして、様々な舞台・物語が描かれた短編集。
どれも出来が良かったし、同じテーマでこんなにも毛色の違う作品を生み出せるのは凄いなと感じたが、斜線堂有紀の作品にしては平凡な感じがする。
だいぶ昔に『楽園とは探偵の不在なり』を読んでしまったせいで、斜線堂有紀にもっとずば抜けた作品を求めてしまっている感はある。
『夢の樹が接げたなら』 森岡浩之
森岡浩之のSF短編集。
個人的に人工言語への興味が強かった時期に読んだ本。
正直めちゃくちゃ面白かった。
どの作品もSFでありながら、日常で感じたことを反映しているんだなっていうのがkン時とれる作品ばかりだった。「これを書いた時の作者の心境を答えよ」みたいな問題が解きやすそうな作品。
特に表題作が秀逸で、「言語」と概念に対する新しい解釈が自分の中で生まれたような気がする。
今後も少しずつ森岡浩之作品を読んでいきたい。
『サリエリはクラスメイトを二度殺す』 額賀澪
「死んだ天才」が登場する作品。ミステリかミステリでないかで言うとミステリではないかも。
同じ「死んだ天才」が登場する『少女マクベス』と異なるのは、物語の中心に居座るのが「死んだ天才」ではなく「天才を殺した凡才」であること。
なぜ彼は天才を殺さなければならなかったのか、が主題になる。
舞台は音楽学校、物語の登場人物たちは「死んだ天才」および「天才を殺した凡才」の同級生たち。同級生たちは件の事件に連なるつらい記憶をどうにか過去のものにしようとするが────。
というストーリー。
精緻に描かれた登場人物たちの苦悩と、起こってしまった二度目の事件、残酷なまでの結末。最後までずっと息苦しさを感じてしまうような素晴らしい作品だった。
『女王の百年密室』 森博嗣
森博嗣の百年シリーズの一作目。
前々から読みたかったが、ようやく読む機会が訪れた。
多分、SFミステリ。多分。
エンジニアリング・ライタのミチルとそのパートナ、ロイディが物語の主人公。
クルマが故障して途方に暮れた二人が人知れぬ場所に存在する集落を訪れるお話。
死に対する概念が一般的なものとは異なる不思議な集落と、そこに君臨する謎の女王。
そして、そこで起こる殺人事件。(その集落において、心臓の停止は死を意味しないので、殺人事件と呼ぶのは不適切だろうが)
僕は以前、同作者の『スカイ・クロラ』を読んだことがあるのだが、それと同じ匂いがした。
どこか諦観というか、すべてを受け入れているかのような。多分、作品の匂いというより、作者自身の匂いなのだと思う。それが、同作者のS&MシリーズやVシリーズよりもスカイ・クロラシリーズや百年シリーズのほうが色濃く表れているんだろう。
物語の進行よりもミチルの精神面の描写が主となっており、純文学的な要素が強く出ている。
そのため、最初から最後までずっと情緒を揺さぶってくる。
事件の謎も、特殊な集落特有の性質を利用したワクワクするものだった。
めちゃくちゃ面白かった。
11月
『迷宮百年の睡魔』 森博嗣
『女王百年の密室』の続編、百年シリーズの二作目。
ミチルとロイディが引き続き、今度は別の場所へ取材に出向くところから物語は始まる。
今まで一切の取材を断ってきた、謎に満ちた人工島の上に存在する町が舞台。
前作同様、死生観だったり宗教といったものが大きなテーマになっている。
物語自体は、個人的に前作のリバイバル感のある箇所や事前に予想できる部分が多いが、物語は主題では無いのでそこまで気にならない。
あくまで重要なのはミチルの思考の流れであって、その部分においては一切の妥協無く描かれていたと思う。
『赤目姫の潮解』 森博嗣
百年シリーズ三作目にして最終作。
この作品は前作までと一転、ミチルもロイディも登場しない。
なんなら世界、時代すら違う。
意味が分からないかもしれないが、それでも、間違いなく、この作品は「百年シリーズ三作品目にして最終作」なのだ。
確かにミチルもロイディも登場しないし、それどころか作品内ですらチグハグなまるでパッチワークのような作品にすら感じてしまう。が、いたるところに百年シリーズの前二作のエッセンスがちりばめられており、また作品単体で見てもよく観察すると一つの物語がちゃんと見えてくる。
それでいて、「この解釈で会っているのか…?」と思う部分も多くあり、解釈の余地もありすぎるほどある。
読んだ当初、「どちらかというと映像作品だな」という感想が芽生えが、読後2ヵ月ほど経つ今、やっぱりこの感覚は的を射ていると思う。
頭の中で映像として作品を作り、それを小説という媒体に変換することで、異様な作品になっているような。
正直、こんな作品は他に読んだことがない。
多分、死ぬまでに何度も読むんだろうなと思う。
『小説』 野崎まど
以下で感想書いたので割愛。
12月
『恋と禁忌の述語論理』 井上真偽
2024年に読んだ最後の作品。
井上真偽作品を読むのは多分この作品が初めて。
数理論理学とミステリを掛け合わせた珍しい作品。
僕個人の情報として、数理論理学および論理学については情報系大学生だった当時に学んだのは当然として、卒業後もそれなりに関連文献をあさる程度に好きだ。
そのため、この作品もかなり楽しんで読めた。
作者の性癖が前に出すぎだろ感はあったものの、物語としての完成度が高く、一種のパズル本を読んだような満足感があった。それでいてライトノベルのようなあっさりとした読み口でもあったので、年末に読むのに適した作品だったと思う。
まとめ (総括)
2024年は年間通して、56冊の小説を読んだ。
2023年は75冊読んでいたのと、年始に「100冊くらい読めるといいな~」と思っていたことを考えると、案外少ないなといった感想。
すべての刊行作品を読めているわけではないので、当然、自分が読んだ範囲での話になるが、『名探偵のいけにえ』『方舟』が刊行された2022年、『エレファントヘッド』『地雷グリコ』が刊行された2023年に比べて2024年は不作感が否めない。
それでも、『少女マクベス』や『サリエリはクラスメイトを二度殺す』はめちゃくちゃ面白かったし、今思い返してみても、「読めてよかった」と思える作品だった。
2024年刊行の作品ではないが、百年シリーズも今後読み返すであろう作品になった。
総じて、2024年の読書は充実していたと思う。
2025年は他にやりたいことがあるので、本を読む時間は減るが、それでも読みたいと思った本は読んでいきたい。
2024年内にこの記事完成させたかったのに、これ書いてるのは2025/1/12。カス。